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次世代研究インキュベータ

次世代3次元映像計測技術

視覚が捉える像を超える未来の動画を創り出す

――医療・教育・エンターテイメントの現場での応用を見据えた3次元映像計測技術を確立する。

研究キーワード:計算機ホログラフィ、ボリュームディスプレイ、高速計算

3D画像やホログラフィを使った技術といえば、SFの中のことかと思われるかもしれない。本研究プロジェクトでは、こうした最先端のツールを日常の一部にすることを目指している。

ホログラムは、真に迫る3次元画像を創り出し、映し出された物体をどの角度からでも見ることができる。その作成過程では、レーザーなどのコヒーレント光源が使用され、3Dの物体全体をフルカラーで正確に再現するために必要な複雑な光の干渉縞を記録・再構成する。しかし、高品質のホログラムを生成するには、膨大なコンピュータ処理上の負荷がかかる。リアルタイムに動く3D動画を作成する場合は言うまでもない。

     

本研究プロジェクトの推進責任者で、工学研究院教授の下馬場朋禄のチームは、世界初のリアルタイムホログラフィ3D表示システムを実現するため、超高速アルゴリズムとホログラフィ専用コンピュータの開発を行っている。

プロジェクトのアドバイザーで同研究院教授の伊藤智義は、「ホログラフィ専用コンピュータは、現在の家庭用コンピュータよりも3~4桁多い計算速度を備えることになります」と話す。「私たちはこの専用技術を利用して、ホログラフィ投影、ディジタルホログラフィック顕微鏡、超高速ホログラフィックイメージング技術の 開発を進めます」 (伊藤)。

プロジェクトチームは、最近、小型で安価でズーム可能なホログラフィック投影システムの開発に成功した。このシステムは、教室や医療現場、エンターテインメント製品での使用に適したものだ。下馬場らのチームは、数学的画像操作技術を改良し、ズームインやズームアウトの際にも、高解像度を保てるホログラフィ画像を表示できるようになった。さらに、研究者らは、再生画像の「スペックルノイズ」を低減し、画像品質の劣化を避けるためのアルゴリズムの開発も進める。

一つの画像に複数の視点

プロジェクトのもうひとつの狙いは、広い視野角を備えた大型の3D画像を再生することにある。これは、現在の技術では実現が難しいものの一つとされる。

「私たちは、精度の高いホログラフィ計測システムの開発を行っています。このシステムは動きのある現象をリアルタイムで視覚化し、研究者は3Dの画像を見て計測が出来るため、医科学として非常に有益です」(下馬場)。

もう一つ興味深いテーマとして、ボリュームディスプレイと呼ばれる3D画像作成技術の研究が進められている。ホログラムでは、画像をはっきりと見ることができるのは、一度に数人に限られる。それに対し、ボリュームディスプレイでは、複数の人々が複数の視点から見ることができる。同チームでは、さらに、方向によって異なる情報が見える複数視点画像の作成に取り組む。つまり、ある地点に立つ人から見える情報と、別の地点に立つ人から見える情報を全く異なるものにするということだ。

「私たちのボリュームディスプレイは、複数の観察者にそれぞれ異なる情報を提供します」と下馬場は話す。「この機能は非常に新しいもので、2020年東京オリンピック大会用の多言語標識の開発など、その機能を利用した新たな用途を検討しています」。こうした3Dディスプレイには、最先端の空中投影手法が役立つ可能性があり、この手法についても下馬場らのチームが開発に取り組む。

「成功のカギになるのはネットワーク構築です」と下馬場は強調する。「この研究室を卒業した学生の多くは、大学や民間企業で研究を継続していますが、こうした卒業生とも引き続き協力しています。私たちは、プロジェクトの拡大を図るとともに、大学や企業と実のある協力関係を築いています」。

CHIBA RESEARCH 2020より)

Members

推進責任者
研究者名 役職名 専門分野
下馬場 朋禄 教授(工学研究院)
研究統括
電子画像工学、計算機工学
中核推進者(学内研究グループ構成員)
研究者名 役職名 専門分野
角江 崇 助教(工学研究院) 光工学
白木 厚司 准教授(統合情報センター) 情報工学
岡本 卓 特任准教授(グローバルプロミネント研究基幹・工学研究院) 最適化理論、人口知能
伊藤 智義 教授(工学研究院) 計算機科学、電子画像工学
小圷 成一 教授(工学研究院) 機械学習
高垣 美智子 教授(園芸学研究科) 園芸作物栽培学
塩田 茂雄 教授(工学研究院) 数理モデル、確率モデル
山本 洋太 学術振興会特別研究員(工学研究院) 計算機工学、FPGA

研究内容

受賞歴

下馬場 朋禄 (2020)「日本学術振興会賞」
角江 崇 (2016)「FIT 2016奨励賞」

研究成果報告(2016年〜2018年)

コンピュータホログラフィを中心に,高速イメージング,ボリュームディスプレイの研究を展開し,グローバルプロミネントの支援を受けて大きく加速した。Nature Electronicsをはじめ,68編の論文を発表した。

図1. HORN-8システム

図1は本研究グループで独自に研究開発を進めてきたホログラフィ専用計算機システム(HORN-8と名付けています)の一部である。専用計算回路を実装したチップを7個搭載したボードを開発し,8ボードを同時に動作させるクラスタシステムを構築した。演算速度はパソコンの1,000倍を超え,1,000万点で描画された3次元像から1億画素のホログラムを生成し,世界最大の電子ホログラフィ再生を実現した。Nature Electronics(2018年4月)に掲載され,再生像は表紙に採用された(図2)。ビデオホログラフィの扉を開くものとして,国内外で30以上のメディアに取り上げられるなど,大きな反響を呼んでいる。

図1は本研究グループで独自に研究開発を進めてきたホログラフィ専用計算機システム(HORN-8と名付けています)の一部である。専用計算回路を実装したチップを7個搭載したボードを開発し,8ボードを同時に動作させるクラスタシステムを構築した。演算速度はパソコンの1,000倍を超え,1,000万点で描画された3次元像から1億画素のホログラムを生成し,世界最大の電子ホログラフィ再生を実現した。

図2. 世界最大規模の電子ホログラフィ

Nature Electronics(2018年4月)に掲載され,再生像は表紙に採用された(図2)。ビデオホログラフィの扉を開くものとして,国内外で30以上のメディアに取り上げられるなど,大きな反響を呼んでいる。

図3. 指向性ボリュームディスプレイ

指向性ボリュームディスプレイは,本研究グループのオリジナル研究として基本的なアルゴリズムを提示し,同一方向でも表と裏では異なる像を投影させることに成功した(図3)。電子化やナノフォトニック材料を用いたプロトタイプの開発にも成功した。 SIGGRAPH Asia(2016年12月), SIGGRAPH(2017年7月)などのトップカンファレンスで発表し,Scientific Reportsなど6編の論文として詳報した。

また,本プロジェクト実施時にAI技術が大きく進歩したため,当初の研究計画にはなかったが,ホログラフィの画質改善についてAI(特にディープラーニング)の導入を行い,良好な結果を得た.当該分野では先駆け的な成果であり,次世代メモリとして期待されているホログラムメモリをはじめ,画質向上が本質的に重要な課題に貢献できるものと,研究を継続して展開している。

もう一つのアウトプットとして,若手人材育成が大きく進んだ.この3年間で本研究グループから6人がアカデミックポジションを獲得し,強固な研究体制が大きく拡充している。