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次世代研究インキュベータ

昆虫が拓くビッグ・イノベーション

自然に目を向け飛行に革命をもたらす

――昆虫の羽ばたきを分析することで、低速で飛行する超小型飛行機の制御に活かす。
研究キーワード:生物規範工学、生物飛行、ドローン

昆虫やハチドリの素晴らしい飛行能力に触発され、千葉大学生物機械工学研究室では、20年以上に渡って羽ばたき飛行の先駆けとなる研究を行っている。同研究室を率いる工学研究院教授の劉浩のもと、チームでは飛行の概念自体に革命をもたらそうとしている。

 

「昆虫は、静止空気中でも乱気流下でもホバリングを行い、高度に制御された飛行を行うことができます。これまで、乱気流下において昆虫がどのように空気力をつくるかについてはほとんど知られておらず、飛行中に素早い軌道修正を維持する方法についてはもっと知られていませんでした」と劉は話す。

生物を規範とした超小型飛行機

従来型の人工飛行機の飛行では、翼の上下両面を絶え間なく空気が流れ、これにより「吸引」効果で翼を持ち上げる力が働くことで成立している。

「固定翼で揚力を生じさせるためには空気の流れが滑らかでなければならず、翼上に乱気流が発生すると大事故につながりかねません。昆虫の飛行の謎を解く第一の突破口は、飛行する昆虫の大半が羽ばたく羽の前縁に渦(前縁渦)を生じさせることで揚力の大部分を生み出すことでした。これは従来の飛行方法とは全く異なる原理です」。

すべては1996年に劉が昆虫の飛行に関する計算流体力学シミュレーションを初めて開発したことから始まり、これが昆虫や鳥の飛行に普遍的な翼の前縁渦を生成するメカニズムの発見へとつながっている。

さらなる探求のため、劉らは秒速0.5メートルの低速気流を生成することができる超低速風洞を研究室に設置する。これにより、生きた鳥や蛾や甲虫、とんぼなどの昆虫、さらには超小型飛行機(災害救助などに利用可能な超小型ドローン)の飛行を観察し、分析が進められている。

「高速イメージングや粒子画像速度計測データを用い、昆虫とその飛行メカニズムのコンピューターモデルを作成することに成功し、これを元に、実際に飛行する昆虫型ロボットを実験的に作成しました。これがもう1つの突破口となりました」。

「私たちの研究は、生物学・工学・計算力学・バイオロボティクス・神経科学の知見を取り込み、ケンブリッジ大学やロンドン大学などとの非常に興味深い国際共同プロジェクトを実施してきました。千葉大学は学際的な研究チームと世界有数の設備を有しており、この分野では間違いなく世界のトップクラスです」。

同チームでは現在、昆虫や鳥の生物規範飛行システムの開発に注力しており、劉は昆虫サイズや鳥サイズの超小型飛行機の設計が大きく進歩するのではと期待している。

「例えば、昆虫は突風にあっても飛行制御を巧みにこなせますが、その秘密の1つは柔軟な翼にあると考えています。しかし、昆虫が飛行方向や動きを制御するために、能動的か受動的かを問わず、従来考えられていた以上にその胴体を使っていることもわかりました。これは今日飛行機に用いられている従来の翼を用いた飛行制御の方法とは全く異なっており、飛行制御戦略一般に革命をもたらす可能性があります」。

「最終技術として、今日の回転翼を用いた技術で実現可能なものよりもはるかに信頼性が高く、敏しょうな、昆虫を規範とした自律型のドローンを開発したいと考えています。さらには、はるかに広い応用範囲を射程とした飛行メカニズムの非連続的なイノーベーションへとつながるのではとも期待しています。本プロジェクトにおいて、学際的な協力研究体制のもと、高度な羽ばたき超小型飛行機の開発を続けるとともに、柔軟翼技術の導入により、回転翼ベースのドローンの信頼性を高めたいと考えています」(劉)。

CHIBA RESEARCH 2020より)

Members

推進責任者
研究者名 役職名 専門分野
劉 浩 教授(工学研究院) 生物機械工学
中核推進者(学内研究グループ構成員)
研究者名 役職名 専門分野
並木 明夫 准教授(工学研究院) ロボット工学
大川 一也 准教授(工学研究院) ロボット工学
中田 敏是 助教(工学研究院) 生物機械工学
桑折 道済 准教授(工学研究院) 生体模倣高分子
松香 敏彦 教授(人文科学研究院) 行動科学認知情報
牛谷 智一 准教授(人文科学研究院) 比較認知科学、視覚情報処理
渡辺 安里依 准教授(人文科学研究院) 比較認知科学、メタ認知
高橋 佑磨 特任助教(理学研究院) 進化生物学
石川 裕之 准教授(理学研究院) 発生生物学
加藤 顕 准教授(園芸学研究科) 緑地環境資源学
鈴木 智 准教授(工学研究院) 細胞生物学

研究内容

            

受賞歴

中田 敏是 (2019)千葉大学先進科学賞