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次世代研究インキュベータ

移民難民スタディーズ

外国にルーツを持つ人たちと生きる

――グローバルとローカルをつなぐ視点
研究キーワード:グローバル化、移民・難民研究、多文化共生            

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トランスナショナルな人の移動の増大

 コロナ禍により国境が封鎖されるまで、国境を超える人の移動はグローバル化する世界の日常の一部だった。その中には留学や就労を目的として移動をする人々もいれば、紛争や迫害を逃れて国境を越えざるを得なかった人々もいる。グローバル化の進展に伴う移民や難民の増大は、世界各地で様々な課題を生じさせており、トランスナショナルな人の移動をめぐる人文社会科学の研究が活発化している。

2015年のヨーロッパでのシリア難民危機やイギリスのEU離脱、ミャンマーのロヒンギャ難民の周辺国への大量流出、メキシコとの国境に壁を作ることを訴えた米国のトランプ政権の誕生などに見られるように、人の移動は国際社会の在り方に大きな影響を及ぼしてきた。日本においても、出入国管理及び難民認定法の改正や留学生30万人計画などにより、2019年末には約300万人の外国籍者が暮らしている。

毎日の食卓にのぼる野菜や加工品、コンビニのお弁当、ホテルのベッドメーキング、自動車製造や建設業、IT技術者や大学教員にいたるまで、私たちの生活は多くの外国出身者によって支えられている。しかし、その事実は必ずしも可視化されていない。また、「外国人」と言っても、その中には日本生まれのオールドカマーや日系人、留学生や技能実習生、難民、日本人の配偶者や国際結婚による子どもたち等の多様な背景を持つ人々がいる。実際の日本社会は多様であるにもかかわらず、「日本(人)」と「外国(人)」の間に境界線を引いて対置させ、ステレオタイプに捉える傾向も存在している。

小川の率いる本研究グループは、グローバルな人の移動と千葉というローカルな地域における実践を結び、移動の背景やネットワーク、政策や制度、在日外国人の教育や雇用について包括的に調査し、千葉をフィールドとして多文化が共生するための課題を明らかにすることを目的としている。第1に国際移動の発生から定着にいたるまでの包括的な移住プロセスを学際的に明らかにし、第2に教育と雇用に焦点を当てて、実態調査と分析に取組む。そのために、グローバルなガバナンスやネットワークの観点から人の移動をとらえる研究班A、日本企業で就労する外国人労働者の課題を明らかにする研究班B、教育現場における外国につながる子どもの課題を扱う研究班C、紛争や貧困など国際社会の諸問題を分析する研究班Dの4つの研究班を置き、国際政治学、歴史学、社会学、経済・経営、教育学、地域研究という学際的なアプローチにより、研究成果の学術的な発信とそれに基づく政策提言を行う。

教育と雇用をつなぐ視座

本研究のキーワードの1つは多文化共生である。責任推進者である小川は言う。「『多文化共生』は外国人の社会統合を表す言葉として用いられてきたが、現在の日本においては、外国人に対する権利保障と教育と雇用をつなぐ視点こそが重要になる」。日本は多くの国際条約を批准しているが、国際規範の国内への浸透が不十分であることから、多くの課題が噴出している。その中の1つが、外国につながる子どもたちの教育である。日本はこれまで、外国につながる子どもたちを教育政策の中に明確に位置付けてこなかった。そのため、低学歴、不就学の問題が顕著になっている。文科省の調査によれば、70%近くの地方自治体には外国籍の子どもがいるが、約2万人の子どもは学校に通っていない。ここに日本国籍を取得しているが、日本語教育等の配慮が必要な外国につながる子どもたちを含めれば、不就学の人数はもっと多くなる可能性がある。教育機会の欠如は生涯にわたって影響を及ぼし、社会的にも多大な損失を招くことは多くの研究で指摘されている。

外国につながる子どもたちが日本の学校教育を受ける上での障壁を取り払うことが出来れば、次世代の社会の担い手となり、能力を発揮することができる。複数の文化の中で育つ子どもたちを周縁化するのではなく、潜在能力を活かすことが出来るような環境が必要である。

また、外国人労働者は日本人よりも低賃金で不安定な雇用下に置かれているケースが多いが、保護者の雇用が安定しなければ、子どもたちも安心して学校に通うことが出来ない。「人口減少が加速する日本で、外国出身者の教育と雇用をつなぎ、正の循環を生み出していくことは急がれる課題で、学術的にも政策的にも意義があります」と小川は話す。

「多様性を認める多文化共生社会は、外国出身者だけでなく、階級、ジェンダー、エスニシティ、出身地域や障がいの有無によって分断された多様な「日本人」にとっても暮らしやすい社会なのである。

CHIBA RESEARCH 2021より)

Members

推進責任者
研究者名 役職名 専門分野
小川 玲子 教授(社会科学研究院) 社会学、移民研究
中核推進者(学内研究グループ構成員)
研究者名 役職名 専門分野
佐々木 綾子 講師(国際教養学部) 社会学、国際社会福祉、福祉政策
福田 友子 准教授(国際教養学部) 国際社会学、移民研究
中村 千尋 准教授(社会科学研究院) 西洋経済史
清水 馨 教授(社会科学研究院) 経営管理総論
横尾 陽道 准教授(社会科学研究院) 経営戦略論
土田 雄一 教授(教育学部附属教員養成開発センター) 道徳教育、教育相談、国際理解協力
小林 聡子 准教授(国際教養学部) 教育学、言語人類学、質的研究方法論
崎山 直樹 講師(国際教養学部) 歴史学
高光 佳絵 准教授(国際教養学部) 国際政治史、アメリカ外交史、政治学
齊藤 愛 教授(社会科学研究院) 憲法
酒井 啓子 教授(社会科学研究院) 中東地域研究

研究内容